20歳を過ぎた頃のことでした。秋のじめついた天気のせいで洗濯物の部屋干しが続き、うんざりしていた頃、妙に背中や脇のあたりに「もぞもぞ」と、むずがゆいような変な感覚がしているのに気が付きました。
数日経つうちに、その違和感ははっきりとしたかゆみに変わり、時々耐え難いまでの強烈なかゆさを感じ始めました。変な虫にでも刺されたのかと思い、鏡でよく見てると、背中や脇のかゆみのある部分が真っ赤になってただれていました。部分的に白いかさぶた状の膜ができ、それがぽろぽろとはがれてきます。
「何これ？」市販のかゆみ止めを塗っても一向にかゆみはおさまりません。私はたまらずに皮膚科へ飛び込みました。医師は首をひねり、「よくわかりませんね～。ま、何かにかぶれたんでしょう。」とのこと。ステロイドのお薬を処方されました。
家族には「ほら、雨が続いてたから服がきっと生乾きだったのよ。あなたは皮膚が過敏だから、そのせいでかぶれたんじゃない？」と言われました。私自身も、薬がもらえたのだから別に原因は追究しなくてもいいか、とうやむやにしてしまったのでした。
医師が処方してくれたステロイド剤は効果が強く、ただれとかゆみは1週間ほどで見事に治ってしまいました。その後はこのただれのような症状が出たことは全くなく、「肌着はしっかり乾かして、肌に優しいものを選ばなくちゃね」くらいに考えていたのです。
ところがそれからほぼ10年がたった31歳の時。結婚して妊娠初期だった頃に、再びあの強烈なかゆみが襲ってきました
この時は、頭皮など毛の生えている地肌に症状が強く出てきました。明らかにただれている部分もありました。
産科医に相談して皮膚科に赴きました。この皮膚科は以前受診したのとは別の医師です。
「女性には大変珍しいのですが、これは乾癬です。」と言われ私は驚きました。「うつるものではなく、遺伝性の病気なのですが…ご家族に似たような症状の方はいませんか？以前もこんなただれ・かゆみが出たことは？」
この乾癬という皮膚病は慢性化して、完治することはないと言われて私は一瞬気が遠くなりました。
乾癬とは身体じゅう至る所に火傷痕のようなただれができ、それが白いかさぶたになっていく遺伝性の皮膚疾患です。これは体にもできますが、頭皮部分にもよく出現します。かさぶたが白っぽく剥がれ落ちるため、肩先などに積もればフケにも見えます。
私の場合は背中や脇、頭皮やアンダーヘア部分にも現れました。
先生は「どういった原因があってかゆみが出るのかは人それぞれです。疲れやストレスがたまると体じゅう様々な部分にこういったただれが出て、白っぽいかさぶたになります。ステロイドでかゆみを抑えることもできますが、それよりも一番いいのは優しい保湿クリームだけを初期段階で塗って、休養をしっかりとる事ですよ。」と言っていました。
この時はステロイドを使わずに、処方された保湿クリームだけで乾癬のかさぶたは治っていきました。
どうやら私の場合は、ストレスや疲労などが乾癬やかさぶたの発症にダイレクトにつながってしまうようです。
ステロイドなどの強い薬品や高価なケア用品を使う事よりも、「心穏やかに生活を送ること」、そして「早めに対処する」ということが重要なようです。
これを実践するのは難しいことも多々あるのですが、うまくやり過ごしていかないと頭皮中、体中がかさぶただらけ…という大変な事態にもなりかねません。でもある意味、かさぶたは体からの危険信号という風にとらえることもできます。今では頭皮のかさぶたを発見したら、疲れを癒してリラックス…という風に休養することを心がけています。
その後もこの医師の指示に沿い、市販で買える赤ちゃん用の保湿クリームを常備し、「ちょっと乾癬っぽいかな？」というただれや赤み、かゆみのサインが出たらすぐに塗るようにしています。妊娠・出産による体質やホルモンバランスの変化からか、この頃から乾癬の発症自体はかなり多くなったのですが、こうして早期発見のつど対策を施しているので、ひどくなることは滅多にありません。
乾癬と言う病気は日本人女性の間ではかなり珍しい皮膚疾患だそうです。赤み・ただれ・白いかさぶた…という外観も、慣れない人には見分けにくいので、医師によっては別の診断を下す場合もあるでしょう。実際私も最初はただのかぶれくらいにしか診断してもらえませんでした。また、治らないと言われている病気ではありますが、うまくつきあっていける病気である、と今では思っています。
「この、長く続く変なかゆみは何だろう」「どうしてかさぶたが白っぽいんだろう？」等の症状に心当たりのある方は、もしかしたら乾癬かもしれないという可能性も考えて、早めに皮膚科を受診してみてください。
