監修医師
おおこうち内科クリニック
大河内 昌弘
名古屋市立大学病院、愛知県公立尾陽病院で内科医として勤務した後、アメリカルイジアナ州立大学生理学教室に留学。
その後、厚生連尾西病院内分泌代謝科部長、名古屋市立大学消化器代謝内科学 臨床准教授を経て、平成24年10月におおこうち内科クリニック開業。
日本内科学会専門医、日本糖尿病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医、日本消化器病学会専門医、平成15年学位取得。
痛風の基礎知識
みなさんは「痛風(つうふう)」という病気を聞いたことはありますか。
痛風は、最も簡単に言えば、尿酸値が高いことによって足の親指が腫れて痛くなる病気です。「ちょっとした風が吹くだけで患部に激しい痛みを感じる」ほどのつらい痛みが出ることから、痛風と呼ばれています。
痛風の症状があらわれる数日前から患部にちょっとした違和感を覚える人もいますが、何の前ぶれもなく突然起こることもあり、いつ発症するか予測できないことがあります。
医学的に痛風とは、高尿酸血症が持続した結果として関節内に析出した尿酸塩が起こす結晶誘発性関節炎1)とされています。尿酸という物質が過剰に体内に存在することで、関節内で結晶化して刺激になり、腫れ上がってしまうことで痛くなる病気です。
痛風が起こる原因は、からだの中にある尿酸という物質です。普段、からだの中で尿酸は水分に溶けているのですが、この尿酸の濃度が高くなると固まって結晶(固形)になります。
結晶が関節中に存在すると、からだも異物だと認識して白血球などのからだを守る細胞が活発になり炎症が起こります。その結果、結晶を除去しようと奮闘して炎症が起こった場所(関節)が腫れてしまうのです。
この痛風の原因物質である尿酸は、からだのエネルギー源である「プリン体」という物質から生まれる老廃物です。プリン体を多く含む食材が肉類や干物、ビールなどが挙げられます。そのため、昔はそれらをたくさん食べられる富裕層が痛風になりやすく、いわゆる「贅沢病(ぜいたくびょう)」といわれていたのはそういう理由からです。
世界中で知られている歴史的な著名人と痛風
痛風は、食生活の乱れから生じる生活習慣病の1つであるため、現代病だと考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、意外にも歴史的には古くから存在している病気です。
人類は古くから痛風に悩まされていたという可能性を示唆する記録がしっかりと残っています。最古の例としては、なんと古代エジプトのミイラに放射線検査やDNA検査をしてみたところ、足の先や足の指などといった場所に炎症を起こした形跡が残っており、痛風発作が起きていた可能性があるのです。
その他にも、比較的高い地位の人のミイラ、また文献などからも痛風によって起こったと考えられる症状が記録されているものが残っています。これらの中には、あの有名なアレクサンダー大王やカルロス五世、さらにはルイ14世、レオナルドダヴィンチ、ダンテ、ニュートン、ダーウィンなどと世界中で知られている歴史的な著名人が痛風で悩まされていた可能性があるのです。
著名人だから痛風になりやすいというわけではないかもしれませんが、一般庶民と比べて肉類を中心としている豪華な食事をしてきたり、毎日飲酒をしたりすることができてしまったため痛風になってしまったのかもしれません。
まさしく現代人が抱えている問題と同様の状況に置かれていたことがさまざまな歴史的資料から推測することができますね。
日本における痛風の患者数は、昔はほとんど記録されていませんでした。1889年~1959年の間の報告数はたったの83件です2)。実際はもっと発症していて記録に残っていないだけという可能性もありますが、もともと肉より魚を好む日本人にとってはなじみの薄い稀な病気だったのです。
近代になり、統計的には1960年代から徐々に痛風の診断件数が増えてきている傾向にあり、今では100万人以上が痛風や痛風予備軍になっていると推測されるほどです。これは日本が豊かになり、日本人の食文化が肉類を中心とした欧米化が進んできていることが主な原因と考えられています。
ちなみに、男女の差で言うと、女性より男性のほうが痛風になる人が多いことがわかっています。
痛風発作が起こる部位は足だけではない
痛風発作が起こる部位というのは、ある程度決まっています。
痛風の過半数以上の人が足の親指の付け根に発症しており、その他にも、かかとやアキレス腱、くるぶしの関節、そしてひざの関節などといった下肢に起こることが一般的です。
ただし、なかには肩やひじや手指の関節などに起こるケースもあります。
下肢の痛みではないからといって痛風でないとは限りませんし、逆に、足の親指の痛みであっても痛風とは言い切れません。
痛風は発作が起きるまで自覚症状がないことがある
痛風の典型的な症状は、事前の兆候や痛みなどといった自覚症状がほとんど無いまま、ある日突然に痛風特有の耐え難い激痛の症状が出てくるもので、痛すぎて歩けないこともあります。
「痛風と言えば足の痛み」とイメージを持たれる人も居るくらいに痛風の初期症状は足の親指の根元の関節の痛みがほとんどです。
そして、その痛みはほとんどの場合が発症してから数日~1週間程度で収まります。おさまった後は、なんの症状も出ない状態が続いた後、また急に足が痛くなる。このように発作と無症状の状態を繰り返していくのが痛風の症状です。
一度痛みがおさまったからといって完治しているというわけではなく、きちんと対策をとらなければ、再び痛風発作に苦しむことになってしまいます。
痛みだけではない痛風の合併症
尿酸は足だけに問題を起こすわけではなく、痛風結節・痛風腎・尿路結石などの合併症を起こすこともあります。
痛風の原因である尿酸が血液のなかに多い状態(高尿酸血症)は心臓の病気を引き起こす要因でもあるということがわかってきています。
ここで注意しなければならないことが、尿酸が血液のなかに多量に含まれている高尿酸血症の状態であれば、必ずしも痛風になるというわけでは無いということです。どういうことかというと、痛風を起こすほどの高尿酸血症があっても、無症状のまま過ごしている可能性がある、ということです。
高尿酸血症は、健康診断や人間ドックなどといった血液検査にて尿酸値を把握することができますし、高ければ医師から指摘もされると思います。しかし、尿酸値が高いと言われたとしても、症状がなければ特に注意を向けることなく何年、何十年に渡って高尿酸血症のままの状態で放置してしまうかもしれません。
そうすると、いつのまにか高尿酸血症に伴う合併症だけ、気づかないところで進行してしまっている可能性がある、ということです。高尿酸血症を指摘されるようなら、痛風発作や高尿酸血症による合併症に苦しむ前に、まずお近くの内科クリニックを受診しましょう。
痛風の痛みの対処法
痛風は、いつ、どのようなタイミングで発症するのか予測をすることの難しい、非常にやっかいな病気です。
しかし、健康診断などで尿酸値が高いと指摘された際に生活習慣をあらため、必要に応じて薬による治療を受けることで発作を回避できる可能性があります。
痛風を発症し、七転八倒の激しい痛みに苦しんでしまうより、適切な検査と処置を受けましょう。どのような病気でも、早期発見、早期治療が大切なことです。
残念ながら痛風発作をおこしてしまった場合、患部を動かさないようにして安静を保つことが大切です。
また患部を水道水などで濡らしたタオルなどを使い冷やすことで、多少痛みを緩和させることができます。
痛風発作が起こってしまった場合は、速やかな医療機関の受診をおすすめします。痛みが強く移動が困難な場合は、家族や知人の助けをかりるなどして早めに対処しましょう。
1) 山中 寿.高尿酸血症・痛風の診断と治療.日本内科学会雑誌104巻9号2040.
2) 松浦 尚子,御巫 清充:痛風,その歴史,疫学,原因,リウマチ科2: 462-467.